株式会社オプティム 経営企画本部 本部長
新しいコトが生まれる組織に必要な要素とは何か。「◯◯× IT」をキーワードに、AI・IoT・Robot の力を活用 し、私たちの身の回りの生活や産業に存在する課題解決に取り組む株式会社オプティム。同社の経営企画本部長 山下隆敏氏は、事業領域に深く根差した専門性を持つ“非エンジニア採用”を推し進め、人材採用・育成の側面 から新ビジネス・サービスの創造加速に挑戦している。これまでの挑戦と成果についてお話を伺った。
コンサルティングから、 事業会社へ
楠:貴社はいわゆる IT 系の企業であり ながら、現在 IT とは全く関係のない人 材の採用に挑戦されています。山下さ んもエンジニアではないという意味で はそのおひとりですが、もともと採用 や育成など人事経験をお持ちだったの でしょうか。
山下:いえ、3 年前にオプティムに参 画し、人事を管掌するようになりまし たが、それまでは、コンサルティング ファームにてビジネスコンサルティン グを 20 年ほど担当していました。実 家が小売店を営んでおり、コンサルタ ントにお世話になったことがきっかけ で、「企業のドクター」とも言われる この仕事に興味を持ちました。新卒で 入社したのは銀行系シンクタンクで、 その後、外資系のファームに移りましたが、一貫して企業の戦略策定や組 織・人事戦略に関するコンサルティン グに従事していました。
楠:コンサルティングファームから事 業を実行する会社に転職された理由は どういったものでしょうか?
山下:コンサルタントの仕事は、設計 は行いますが実行、特に最後の最後ま でやりきる・成果を出すところまでは求められません。様々な組織に関わり、 コンサルティングに取り組む中で、自 分もいつかは事業会社で自分の会社の ために意思決定に携わり、そして最後 までやりきれる仕事がしたいと思うよ うになっていました。
IT の進化により「UBER」のような タクシーを 1 台も持たないタクシー会 社が生まれるなど、テクノロジーを活 用することでこれまでの常識を覆すよ うなビジネスが生まれてくることを強 く感じたため、IT 業界に関心を持ちま した。「ビジネスをテクノロジーが支 える」から「テクノロジーがビジネス を生み出す」世界へと変化していく瞬 間を、肌で感じていました。
楠:数ある IT 企業の中で、オプティム を選んだのは?
山下:オプティムと出会ったのは、オ プティムが現在の主幹事業の1つであ るスマート農業分野へ進出したタイミ ングでした。現在では農業と IT の融 合はそこまで目新しいものではなく なってきましたが、当時は IT の活用 領域としてアイデア・技術両面から極 めて斬新な取り組みでした。農業用ド ローンを自ら開発し、AI を駆使して 害虫のいる所にピンポイントで農薬を 散布する、それにより農家の負担と担 い手の減少という課題解決にチャレン ジする取り組みは、取り組みそのもの に興味を惹かれただけでなく、IT の進 化が新しい産業を創出することを確信 し、それができるのはこの会社だ!と 思わせる強い可能性を感じさせるものでした。会社としても東証 1 部へ上場し、さ らなる成長に向けた経営基盤づくりに 取り組むタイミングであり、私でも役 に立てることがあるのであれば、オプティムのチャレンジの一翼を担いた い、そう思うようになり、入社を決め ました。
新ビジネス・サービス開発の加速 を目指した、採用改革への挑戦
楠:新規事業創出に必要な専門性は、 外部リソースの活用でも進むと思いま す。あえて社内にそういった人材を入 れようと思ったのはなぜでしょうか?
山下:オプティムのビジネスにおいて 象徴的なキーワードは、やはり「◯◯ ×IT」です。農業や医療といった様々 な課題を抱えながらも、これまであま り IT を活用できていなかった産業に 目を向け、個別企業の枠を越え、産業 としてさらなる進化を遂げるよう、IT の開発からサービス・ビジネスの提供 までトータルで行うことを目指してい ま す。AI・IoT・Robot を 事 業 の 基 軸とし、「〇〇 ×IT」戦略を打ち立て て以来、既存産業や事業の在り方に課 題意識を持つ多くの皆様とお話しする機会を頂き、ビジネスのヒントをたくさんいただけました。そこでの学びは 「〇〇 ×IT」を実現するためには、外部の皆様の知見をもっとしっかり活か す必要があり、そのためには私たち自 身ももっと「○○」について知っている必要があるということです。 農業分野ひとつとっても、課題を理 解するにも、課題解決の仮説を立てる にも、作るもの、作る場所、作る方法 が変われば、それに応じて異なる専門 知識、その背景や周辺知識が求められ ます。当初は、都度外部の専門家の方々 を頼り基本的・初歩的なことから1つ 1つ教えてもらいながら、1歩ずつ進 めていました。社内にエンジニアだけ ではなく、その分野に通じていて、初 期の段階から何を調べるべきか、誰に 聞くべきかわかり、調べたこと伺った ことを正しく理解できる人材がいれば もっとスムーズに「〇〇 ×IT」を進め ていけるのではないかと考え、特に修 士や博士号取得者の専門人材採用を始 める、という挑戦に踏み切ったのです。 彼らが、IT スキルまでつけたらそれは もう鬼に金棒です。
楠:今までエンジニア採用がメインだっ たと思うのですが、専門人材として研 究者を採用するにあたり問題はなかっ たのでしょうか?
山下:おっしゃる通り、研究者採用を するにあたり、最初から問題に直面し ました。そもそも人事が研究者を理解 していないということです。研究者は、 どのように日々研究に取り組み、どの ような価値観、マインド、職業観を持っ ているのかが全く分かりません。採用 の場面になってはじめて研究者を知っ たのでは採用の選考も魅力付けも到底 無理です。採用する側が、もっと研究
者を理解しない限り、相手は見向きも してくれない。ここは非常に課題だと 考えていました。 そこで、まずは研究者と呼ばれる人 たちがどんな人材なのかを知る機会が 必要だと考えていました。その1つが、 リバネスさんが主催する研究者のため のキャリアイベント『キャリアディス カバリーフォーラム』でした。多くの 研究者が集まり、研究者としての価値 観やマインド、さらにはオプティムの 取り組みに興味をもってもらえそうか をざっくばらんに聞ける場はなかなか ありません。これはまさにぴったりの 場だなと思いました。
楠:研究者とのコミュニケーションは いかがでしたか?
山下:キャリアディスカバリーフォーラムでは、単なる企業紹介ではなく、 「お互いにやりたいことを話す場」が 設計されており、研究への多様な考 え・想いを聞くことができました。企 業のことを学ぼうという姿勢を持ちな がら、自身のバックグラウンドや研究 への想いを熱く話す研究学生や若手研 究者に出会うことができ、積極的に採 用していきたい研究者像が少しずつ見えてきました。特に強く感じたのは、 この1年で若手研究者の「〇〇 ×IT」 的発想が急激に進んできていることで す。昨年までは、あまり研究と IT を 関連付けて考える若手研究者は多くな かったのですが、今年は私たちのブー スに来たほぼ全ての参加者が研究テー マ ×IT について何かしらの意識や課題 認識を持っていたことに非常に驚きま した。研究をする中で、IT が必要であ ることに気づき、自ら学びながら研究 を進めているという方も実際にいまし た。これは私たちにとってとても嬉しいことですね。
8人の異分野専門人材の採用
楠:そして、今年度はエンジニアでは ない「専門人材の採用」をスタートさ れたわけですが、採用して半年たって みていかがですか。
山下:今年、農学系や生命科学系出身 の 8 名を採用しました。採用の改革だ けで終わりではありません。1 つは新 入社員研修です。社内に入ってきた非 エンジニア人材の育成はエンジニアと 同じにはできませんから、全く別の育 成プログラムを用意し、採用に挑みま した。 私たちが目指しているのは、専門的 な知識と IT の知識両方を持つ、まさ に「〇〇 ×IT」を体現する人材です。 入社して最初の一歩として、IT の基礎 を学んでもらうことにしました。 社内のエンジニア陣に協力を仰ぎ、 オプティムにおいて必要な IT の基礎 知識とは何かを考えながら、実技を交 えた 3 か月間のプログラムを設計しま した。当初の想定では半数は途中でリ タイヤするのでは、と思いながらプロ グラムを設計したのですが、予想はい い意味で裏切られました。全員がプロ グラムを修了し、思いとスキルに応じ て事業部門・開発部門に配属され、活 躍し始めています。
楠:非エンジニアには、どういったプ ログラムを設計したのでしょうか?
山下:理論と実務に分かれています。 理論は、ほぼ毎日、弊社のトップエン ジニアが講義を行い、必要な基礎理論 を学習します。実務は、前半は個人での簡単なアプリケーションの開発から スタートします。後半は、オプティム の特徴でもあるチーム開発にチャレン ジし、しっかり学習・自習しなければ できないレベルの難易度の開発に取り 組んでもらいました。この期間は、業 務は行わず IT スキルの習得に集中し ていただき、メンターがついて成長を サポートしました。
楠:これからの活躍に期待ですね。
山下:そうですね。農学系の新卒者は さっそく自身の専門性を発揮し、活躍 し始めていると現場からは聞いていま す。彼らを真の意味で活躍させられる かは、彼ら自身の勝負でもありますし、 受け入れる部門側にとっても勝負で す。まだまだ始まったばかりですね。シャベル型人材が「〇〇×IT」 人材のカギ
楠:次年度に向けて、研究者の採用に おいてはどんな人材像を思い描いてい ますか?
山下:キャリアディスカバリーフォー ラムや、実際の採用活動を通じて、「ド リル ( ボーリング ) 型ではなくシャベ ル型人材」というのが私の思い描く人 物像の1つになってきました。これは 研究プロセスの中でどのような勉強の 仕方をしてきたかを表現したもので す。ドリルで土を掘るときはきれいに ピンポイントで深く深く効率的に掘り 進めることができます。シャベルでは 深く掘るためには、周辺も一緒に掘り 進める必要があります。専門性をしっ かり持って掘り進めるのはどちらも同 じですが、それだけではなく周囲分野・関連分野にも触れながら、興味を持っ て掘るという研究をしてきた人のほう が、弊社には向いているのではと考え ています。
楠:どのようにしてドリル型、シャベ ル型を見分けるようにしていますか?
山下:正直、まだまだきちんと見分け られているとは思いませんが、「なぜ その研究をしているのかを徹底的に聞 き出すこと」を意識しています。これ は、もう何年も研究者採用を行ってい る企業の人事の方に教えていただき、 マネをしています。研究の目的や背景 についてどこまでの視野でとらえ、考 えたのかがわかります。先生から勧め られた研究、先輩からの引継ぎ研究だ としても、自分なりになぜそのテーマ とするのかを考えているかどうかは話 せばすぐに分かります。また、研究を 進める中で、気づいたこと・発見した ことを話してもらうことも効果的だと 思っています。
楠:自分で研究テーマを発掘した経験 を持っているかどうかは、研究者に期 待される課題設定力に大きく影響して いる気がしますね。
山下:そうですね。自分で研究テーマ を設定した経験は、仕事をする上で、必ず生きてきます。専門性だけでなく、 ー そのような研究を通じて得られたスキ ルや姿勢を、実際に仕事で発揮できる かどうかは、非常に重要です。そこは 採用後の挑戦ですが、そういう部分も面接では見ていきます。
楠:研究者との出会いで、山下さんに とっての新しい発見もあったのでは? 山下:はい。研究者の皆さんとお話しすると、普段ではなかなか知りえない 情報を教えていただけます。現在、ど んな研究に取り組まれていて、どんな ことが課題なのか。また、現在世の中 で使われている/使われようとしてい る技術をどう見ているのかなど、情報 とその着眼点が非常に勉強になりま す。それだけでも大変ありがたいので すが、特に社会実装を重視する研究者・ 先生は、講義・講演の場などで弊社事 業をご紹介いただいたり、学生との接 点の場や、他の先生を私たちにご紹介 いただけることもあります。 人事をあずかる身としては、最終的 にはオプティムの採用に繋げたいとい うのはありますが、それ以上に今は、 学生・研究者の皆さんがオプティムの ような会社、オプティムが取り組むよ うな事業を知っていただくことで、自 身のキャリアの広がりを捉えてほしい なと思います。そのうえで、オプティ ムを選んでいただくのがベストです ね。 企業が研究者と触れあい、研究者が 企業と触れ合うことで、それぞれの仕 事と研究は変わらなくても、キャリア の産学連携が進み、研究者の活躍の場 も広がるのではないかと思います。
山下 隆敏 氏
株式会社オプティム 経営企画本部 本部長
大学卒業後、都市銀行系シンクタンク経営コンサルティング部門に入社。その後、外資系コンサ ルティングファーム等を経て、株式会社オプティムに参画。コンサルティングファームにおいては、 一貫してマネジメントコンサルティングに取り組み、組織・人事エリアにスペシャリティを持ち、 大手から中堅、国内外様々な業種・企業へコンサルテーションを提供。株式会社オプティムでは、 その知見を活かし、経営企画・人事機能を管掌。