ホーム アド・ベンチャーフォーラム ベンチャーで活躍する博士:「誰もわからない」 「やり方は決まっていない」「解は複数ある」は最高の環境

ベンチャーで活躍する博士:「誰もわからない」 「やり方は決まっていない」「解は複数ある」は最高の環境

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亀本

「誰もわからない」「やり方は決まっていない」「解は複数ある」は最高の環境

安定せず、多様な挑戦ができる場を

「平日は会社で仕事、月1回程度で金曜日夜〜翌週火曜日に大学に通 い、時には徹夜で実験する」。亀本さんは、修士号取得後、博士号取得のために大学院へ入学すると同時に、ディープテックベンチャーのガルデリア社に入社するという欲張りな選択をした。修士課程在学中、東北の大学で研究する傍ら就職活動をしていたが、首都圏の学生のように何十社も回って内定を確保するようなことはしていなかった。「自分が面白いと思えずすぐに辞めてしまうなら意味がない。自分が面白いと思える企業を大切にして、焦って内定を取りに行くのはやめようと思っていました」。そして冒頭のような選択をしたのは、「1つの仕事にこだわるより、色々なテーマに触れられる仕 事がしたい」という亀本さんの志向によるものだ。当初はベンチャー企業という選択肢はまったく無く、大手企業を中心にアプローチしていた。 なぜなら、大手なら全国で多様な事業を展開しているため、1社で多様な仕事や環境をローテーションできる可能性があるからだ。しかし、実は小さい組織だからこそあらゆる種類の仕事を担当しうるという話を聞き、ベンチャー企業に興味をもつようになった。

リスクを取ってでも「面白そう」で選びたい

ガルデリア社に興味をもったのは、取り扱っているのが微細藻類で、自分が大学で研究していた対象が微生物であったことと関連性があったのももちろんだが、亀本さんはバイオの研究成果を社会実装し、社会課題の解決に繋げることをビジョンに掲げている点に強く惹かれたという。また、当時藻類というとバイオ燃料か食糧への利用がほとんどであった中、ガルデリア社にはレアメタルを回収するという他にない独自性があった。惹かれたポイントはそれだけではなかった。「当時、経営者の方が『やることはたくさんあるが、会社設立から日も浅く、制度も整っていない。足りないものはどんどん提案して作ってほしい』と話しており、そういう環境は私にとっては働きやすそうだなと感じました」。整った環境よりも、自ら環境を整備する余地がある方が面白い。学部の頃はそのような価値観はなかったが、大学院に進み、何のために研究したいのか、自分はどんな人生を歩みたいのかを考えた。その結果、「無難を選んで後悔するくらいなら、リスクをとっても良いから、面白いことをやる」という思考に変わったと亀本さんは話す。大学と大学院では取り巻く環境も大きく変わる。おそらく学部時代であれば選択しなかったであろうキャリアを進んだのだ。

1から勉強し直すのはまったく苦痛ではない

現在、研究所では7名の研究員がそれぞれ複数のプロジェクトにアサインされ、各プロジェクトのリーダーを担う。4年目の亀本さんもプロジェクトリーダーを務める。近々上市を目指す金属吸着剤の開発およびプロトタイプ製造がプロジェクトのミッションだ。加工方法や運用プロセスなどで考えられる選択肢は多数あり、 その一つひとつを検討していっている。「到底一人ではできないことばかりなので研究者や他社との協力は必要ですが、大学での研究よりもずっと自律性は高いですね」。基礎研究がメインだった大学では、1つの事象を解明することを目指していた。しかし、今はコストパフォーマンスや顧客視点等、考える軸、解決すべき事象が複数あり、自分でオー ナーシップを取って細かく決断していかなければプロジェクトが前に進まないことが多い。大学の学科の講義で幅広く学んできた衛生学や食品 工学など、就職前は「絶対使わない だろう」と思っていた分野もフル活用しているという。博士にとって、新しい分野を深掘りし たり、1から勉強し直したり 、新たな知識を得たりすることはまったく苦痛ではない 。「自分で考えてやらなければいけない」「新しいことに挑戦する必要がある」は研究者にとっては最高の環境なのだ。