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2020参加企業紹介1 ーインテリジェント・サーフェス株式会社ー

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インテリジェント・サーフェス株式会社

株式会社リバネスが企画するキャリアディスカバリーフォーラム(2020年6月開催)に参加が決定している企業について紹介します。

今回は、インテリジェント・サーフェス株式会社について紹介します。

大量生産技術が拓いた可能性を土台に、 永年の夢を実現に導く
インテリジェント・サーフェス株式会社 代表取締役
切通 義弘 氏

医療機器に高い生体親和性をもたらすMPCポリマーを社会に普及していくべく、切通義弘氏は2016年にインテリジェント・サーフェス株式会社を立ち上げた。その背景には、自身の疾患をきっかけにした医療機器事業への強い想いがあった。大量生産技術が確立され汎用製品への展開が可能となった今、その想いが実を結ぼうとしている。

医療機器表面に革命をもたらす

MPC ポリマー※1 は、タンパク質や血球などの生体成分との親和性が高いことから、特に医療分野において活躍が期待される高分子だ。例えば、ポリエステルやフッ素樹脂(テフロン)から作られる医療用の人工血管は、血漿タンパク質が機器表面に吸着し、これが引き金となって血液凝固系などが活性化して血栓形成に至ることがある。故に、従来の人工血管は直径を10 〜 20mm 確保する必要があった。しかし、MPC ポリマーをコーティングすると、タンパク質や血球が血管に付着しにくくなり、約 2mm まで細くすることが可能となる。このポリマーを最初に合成したのが、東京医科歯科大学医用器材研究所(現:生体材料工学研究所)の中林宣男氏だ。歯の充填物となる樹脂を開発していた中林氏は、細胞膜の構成脂質からアイディアを得て、その樹脂と同じ基本構造の末端をリン脂質で修飾し、MPC ポリマーの開発に至った。医療機器に革命をもたらす素材と評されたが、その合成の煩雑さから収率は極めて低く、初めて合成に成功した1978 年に年間で作れたのは 1g にも満たなかった。それから約 10 年経ち、切通氏の恩師である石原一彦氏(現: 東京大学)がチームに加わり、大量生産技術を確立させた。産業利用はもってのほか、機能評価すらままならないと思われた MPC ポリマーが新たな展開を迎えたのだ。

※1 リン脂質極性基と重合性を有するメタクリロイル基とリン脂質極性基を併せ持った2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)の重合体。

自身の疾患を端緒に事業化を目指す

高校時代から円錐角膜という疾患を抱え、特殊なコンタクトレンズなしには日常生活も難しいという切通氏。「将来は医療機器分野で何か事業を興したい」という意識が芽生えるのは不思議なことではなかった。大学院時代、自らの進むべき道に悩んでいた際、担当医から過去に話を聞いていた中林氏を思い出した。「飛び込みで中林先生を訪ねた時に MPC ポリマーに出会いました。それまで漠然と、生体を模倣すれば、医療機器はもっと体に馴染みやすくなるのではないかと考えていたので、まさにこれだと思いました」。そして、 石原氏の元で、MPC ポリマーのソフトコンタクトレンズへの応用研究に従事した。博士号取得後はバイオマテリアル系のベンチャーに入社したものの、どうしても思いが拭いきれず、もう一度石原研に戻ることを決める。2013 年、MPC ポリマーを用いた医療機器表面の改質に関するテーマで START 事業の採択を受けたことをきっかけに、新たな歯車が回りだした。自ら借り入れをして会社を立ち上げ、やっと掴んだチャンスを活かそうと資金繰りに奔走していた折、第4回ディープテックグランプリにエントリーしてファイナリストに選ばれた。これを契機に様々な企業からのアプローチを受けるようになったと話す。

自らの手で研究開発費を稼ぐ

インテリジェント・サーフェスでは、本格的な医療機器領域への参入を目論み、まず汎用製品への応用で企業としての足元を固める戦略をとった。一般的に高分子素材に水を含ませると、ポリマー近傍で自由に動き回る自由水が生じる。MPC ポリマーは、他のポリマーと比較して極めて多くの自由水を保持する特徴がある。この水分層によって、接触したタンパク質はバルク水中とほぼ同様に振る舞うことができるため、吸着の制御につながる。実は、この水分層は多様な効果を発揮する。例えば、表面乾燥時に汚れが吸着しても、水をかけることで MPC ポリマーが水分を含み、汚れが浮き上がってくる。これを太陽光パネルに活かせば、降雨によって自動で汚れが落ちるセルフクリーニング機能として活用できる。さらに、優れた透明性を持つため、本来の素材の美観を損なわずに水まわり用品に防汚性を付与することも可能だ。他にも、高潤滑性、抗菌性、曇り防止効果など、コーティング先によって多様な価値を生み出す。「医療機器への応用を実現するには、時間もコストもかかります。40 年前から少しずつ進歩を重ねてきた結果、ようやく事業としての可能性が見えてきました」と切通氏は話す。

研究者魂が仲間を集める

MPC ポリマーの知見やノウハウ、人材を集積するために起業という道を選んだ切通氏。「今は、投資を回収しやすい IT 系に資金が集まっていますが、そればかりでは日本のものづくりが衰退してしまいます」。社会貢献したい研究者は大勢いるが、それを後押しする土壌がないのが今の日本の課題だと考える。実際、医療機器と聞いただけで投資家から毛嫌いされたこともあるという。だが、応援してくれる人も必ずいる。近年では医療機器に特化したベンチャーキャピタルもでてきた。「当初反対していた人も今はアドバイザーに入ってくれていて、自分が信じた道が開かれてきたと実感します。自分はもっと研究に力を注ぎたいので、ビジョンに共感してくれる経営者仲間を集めたいですね」と、切通氏は笑って話した。同氏の内に秘めた情熱が仲間を巻き込み、MPC ポリマーの医療機器への応用を飛躍的に推し進めていくだろう。

※上記内容はリバネスの冊子「研究応援vol.06(2017年6月発行)」に掲載されたものです。

 

<キャリアディスカバリーフォーラム2020 開催情報>

2020年6月20日(土)10:00-18:00
場所:TKP市ヶ谷カンファレンスセンター5F

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